ADHD(注意欠陥多動性障害)で就職や転職しようとしている人の中には、「発達障害の診断をされていても、手帳は持っていない」という人は多いです。他にも「診断は受けていないが、受診すればおそらく発達障害と診断されるだろう」という、いわゆるグレーゾーンの人もいます。
このような人たちは、就職や転職にあたり、障害者手帳を取得すべきかどうか悩みます。手帳を取得することに対する、様々な心理的抵抗は大きいからです。障害者という事実は、心情的に容易に受け入れられるものではありません。
ただ手帳を取得することで、劇的に働く環境を改善できたり、周囲からの配慮を得られたりするメリットは大きいです。
そこで、ADHDの人が手帳無しで就職や転職をするかどうかとき、どうした方がいいかを解説します。
もくじ
発達障害者が手帳なしで就活をするときの問題点
ADHDの人が障害者として取得する手帳は、精神障害者保健福祉手帳です。手帳は医師などの専門家がADHDの症状を認めた場合に、自治体が発行するものです。
以下の写真は、私が手帳を取得した時の申請書です。
この申請書に担当医の診断書を付けて、地元市役所の福祉窓口に提出しました。
障害者手帳を持っていない場合、一般枠で就職や転職をすることになりますが、このとき、理解や配慮が受けられないと以下のような問題が発生する可能性があります。
- コミュニケーションの調整が難しい
- 職場環境の調整が難しい
- タスクの管理が難しい
- ストレスが増す
ADHDの人は前述の通り、コミュニケーションの調整が難しいことがあります。例えば、会議中に話題が変わると、自分の話したいことが言えなくなることがあります。このため上司や同僚とのコミュニケーションの調整が難しく、仕事でのストレスが増す可能性があります。
またADHDの人は、騒がしい環境や刺激が多い場所での作業が難しいことがあります。このとき手帳を所持していないと職場環境の調整が難しく、ADHDの症状が悪化する可能性があります。
他にもADHDの人は、タスクの管理が難しいことがあります。例えば上司や同僚に自分のタスクの進捗状況を伝えることが難しく、タスクの優先順位をつけることが難しくなることがあります。
また手帳がない場合、職場での理解や配慮が受けられないため、ADHDの症状が悪化し、仕事でのストレスが増す可能性があります。ストレスが増すと、ADHDの症状が悪化するため、悪循環に陥る可能性があります。
ただ、手帳を持っている人は一般枠で就職や転職する場合、その会社や職種によっては、障害者であることを理由に採用を見送る場合があることもあります。また、ADHDの症状によっては、職務遂行能力に問題があると判断され、採用されない場合もあります。
このため就職や転職の際には、その会社の採用ポリシーや、求められる職務遂行能力にも注目する必要があります。
手帳を取得して障害者雇用求人に選択肢を広げよう
手帳を持つことによる最大のメリットは、障害者雇用を選ぶことができる点です。障害者雇用で採用された場合、職場での特別な支援を受けることができます。具体的には、労働時間の調整や、作業環境の改善などの配慮です。
また、こうした理解や配慮から、職場でのトラブルを未然に防ぐことができる場合もあります。例えば、ADHDの症状によってミスが多発してしまった場合です。このとき職場の上司や同僚が理解しやすくなり、トラブルを回避できることもあります。
このため、ADHDの症状によって職場で配慮が理解がなければ、人並みに働ける自信がないと考える場合、手帳を取得して障害者雇用で就職や転職をした方が無難であるといえます。
障害者雇用でADHDの人が受けられる働き方への理解と配慮
ADHDの人が手帳を持っている場合、一般枠で就職や転職をするとき「障害が原因で、仕事がうまくやれないのではないか」「周りと協力してやっていけるのか」などの不安はつきません。
一方で障害者雇用の場合、職場で以下のような理解や配慮を受けることができます。
- 職場環境の調整
- 時間の調整
- サポート体制の提供
- コミュニケーションの調整
ADHDの人は、騒がしい環境や刺激が多い場所での作業が難しいことがあります。注意力がちょっとした刺激によって、刺激の方向へ持っていかれるからです。
このとき障害者雇用の場合は、職場環境の調整ができる場合があります。静かな場所での作業や、気持ちを落ち着かせることができるクールダウンのためのスペースの設置などが挙げられます。
例えば以下は、大手眼鏡販売チェーンの障害者雇用・正社員求人です。
店舗において接客販売する求人です。この求人には配慮として在宅や時短勤務、勤務時間を柔軟に選ぶことができるフレックス制などの働き方の他、リフレッシュルームなどADHDの人が高ぶった気持ちを抑えるためのクールダウンに必要な環境が整っています。
このように障害者雇用には働き方などのソフト面や、職場の設備などのハード面で配慮がなされることが普通です。
特にADHDの人は、時間に厳密に従うことが苦手な場合があります。このとき手帳を持っている場合、職場での労働時間の調整が可能になる場合があります。
例えば、長時間の作業が続く場合は、頻繁に休憩を取ることができたり、業務の時間帯を調整することができる場合があります。
また手帳を持っている場合、職場でのサポート体制を提供してもらえる場合があります。働きづらさなどの有無について上司からカウンセリングを受けてもらえるなど、組織的な管理です。
例えば以下は、大手化粧品会社の障害雇用・正社員求人です。
小売店などの法人に自社製品を売り込む営業の求人です。この求人の福利厚生は以下の通りです。
この求人は障害に対応した機器が整備されているだけでなく、働き方について人事部や上司と面談してフォローしてもらえます。こうした配慮は、手帳を持っているからこそ受けられるメリットです。
特にADHDの人は、コミュニケーションの調整が難しいことがあります。このとき障害者雇用においては、上司や同僚とのコミュニケーション方法を調整することができます。例えば、メールやチャットなど、書面でのコミュニケーションを優先することなどが挙げられます。
このように手帳を持っている場合、職場での理解や配慮を受けられる可能性があるということです。ただし、職場の状況や企業の採用ポリシーによって異なるため、転職前に職場での配慮や理解についてしっかりと確認しておくことが大切です。
手帳取得による就活で選べる条件のよい求人とは
障害者雇用には、発達障害者にとって多くの配慮や理解のある求人を選ぶことができます。ただ障害者雇用というと、単純作業や低収入の求人ばかりのイメージが強いです。ただ、ADHDの人であっても大手の会社で働いたり、高収入を得たり、専門スキルを持った仕事をすることは可能です。
実際に、ADHDの人々は創造的であり、熱意を持って取り組める場合があります。
また、障害者雇用の取り組みが進んでいることから、ADHDの人でも働ける職場が増えています。会社によっては、ADHDの人が働きやすい環境を整備していたり、サポート体制を整えている場合もあります。
ただし求人に応募する際には、自分自身がどのような環境で働きやすいかをよく考え、選択することが大切です。そこで以下で、手帳を取得することによって選べる条件のよい障害者雇用求人をみていきます。
大手会社で安定して働く
ADHDの人であっても、大手の会社に転職することは可能です。大手の会社では多様性を重視する傾向にあり、ADHDなどの障害者のような多様なバックグラウンドを持った人材を積極的に採用しようとしています。障害者雇用の場合、採用基準はすべての候補者に適用されるため、ADHDであることが採用の障害になることはありません。
具体的な企業については、業界によって異なりますが、多くの大手企業が、ADHDの人に対して積極的に働きやすい環境を整備しています。
例えば以下は大手住宅会社の障害者雇用・正社員求人です。
大手住宅メーカーの事務職の求人です。この求人の特徴は以下の通りです。
年間の休日が129日、賞与が3回支給されており、大手の会社ならではの好待遇といえます。また、障害者雇用に積極的で、300名以上の障害者の雇用実績を誇っています。
こうした障害者雇用実績の豊富な会社では、障害者が働きやすい環境のノウハウも豊富です。このため、専門的なサポート体制が整備されていることが多いです。
また企業が障害者雇用に積極的であることは、社会的責任を果たすだけでなく、長期的な視点で考えた場合、労働力の確保やブランドイメージ向上などにもつながります。
このように大手の会社の求人はADHDの人々が働きやすい環境やサポート体制が整備され、キャリアアップや雇用安定性の向上にもつながることが期待できます。
専門性やスキルを活かす求人
ADHDの人は注意散漫が普通ですが、興味のあることには熱中し、集中力を発揮することができます。そのため、専門職においては、自分が興味を持っている分野で働くことで、高いモチベーションを維持することができます。
また、創造的なアイデアを出すことが得意であることから、新しいプロジェクトの立ち上げや問題解決にも貢献することができます。
例えば以下は大手商社の特例子会社の障害者雇用・正社員求人です。
社内システムやネットワークの開発・構築、管理するための求人です。この求人の応募条件は以下の通りです。
実務経験やプログラム開発実績が、応募の条件となっています。このため、即戦力や実践力を求めていることがわかります。このように専門職の求人は、障害者雇用であっても高い知識と経験、スキルが必要な場合が多いです。
またADHDの人は、クリエイティブな能力や創造性に優れている場合があります。専門職であれば、そのような能力を活かした仕事ができる場合があります。
このよう専門知識やスキルを活かしたいと考えるADHDの人は、障害者雇用であっても専門職の求人を選ぶことができることを理解しておきましょう。
高収入の求人
ADHDの人であっても、障害者雇用で高収入の求人に転職することは可能です。障害者雇用においても、能力やスキルに基づいた採用が求められるからです。
高収入の求人には、一般的には専門的な知識やスキルが必要な職種が含まれます。ADHDの人でも、得意分野や特性に合わせた専門職やクリエイティブな職種など、自分の強みを生かせる求人を探すことが大切です。
例えば以下は大手情報通信会社の障害者雇用・正社員求人です。
アプリケーション開発の専門職求人です。月給が約24万円以上からであり、障害者雇用の中ではかなり高収入です。また、大手の会社ならではの障害者への配慮が充実していることがわかります。
ただし、高収入の求人には多くの競争があるため、必要なスキルや経験を身につけ、自分の価値を高めることが必要です。また、ADHDの人であっても、忍耐力や集中力、自己管理能力を向上させることで、求人に必要なスキルを磨くことができます。
このとき手帳を取得して障害者雇用の求人を選ぶことによって、求人を探す際に有利になり得ることもあることを理解しておきましょう。
手帳を取得してもADHDの人が避けるべき求人の特徴
手帳の取得は、ADHDの負の面をカバーするために必要です。ただ、ADHDの人が手帳を取得して就職や転職をするとき、一般枠はもちろん、障害者雇用であっても避けるべき求人があります。
そこで以下では、ADHDの人が避けるべき求人の特徴についてみていきます。
「チームワーク」「アットホーム」な求人は適していない
ADHDの人は、集中力や注意力を維持することが難しい傾向があります。このためADHDの人が、「チームワーク」「アットホーム」な職場に適していないことがあります。
ADHDの人が、「チームワーク」「アットホーム」な職場に適していない理由は、以下のような点が挙げられます。
- 自分のペースに合わせた作業が難しい
- コミュニケーションの調整が難しい
チームワークやアットホームな職場では、周囲の人とのコミュニケーションが頻繁なため、集中力を保つことが難しくなります。ADHDの人は、話題が変わると自分の話したいことが言えなくなることがあるからです。
ただ多くの場合、和やかな雰囲気の職場をアピールするため、アットホームやチームワークを強調する求人が多いです。同僚との緊密なコミュニケーションによって、仕事を進めることを求められることが多いからです。
例えば以下は大手建設会社の障害者雇用・正社員求人です。
一般事務職の中途採用の求人です。この求人の求める人物像は以下の通りです。
ホウレンソウ(報告・連絡・相談)やチームワークとコミュニケーションを強く求めています。こうしたケースは一般枠の採用だけでなく、障害者雇用の場合も同じです。
一方でチームワークやアットホームな職場で働く場合でも、周囲の理解や配慮があれば、ストレスを軽減することができます。例えば、上司や同僚に自分のADHDの状態を説明し、必要に応じてタスクの調整や休憩時間の設定などを相談することができます。
ただADHDの人が自分のペースに合わせた作業ができる環境を見つけ、周囲の理解や配慮を得ながら働くことができるような制度や施設の整った職場は一般枠にはほとんどありません。
さらに障害者雇用であっても、こうしたコミュニケーションの調整まで配慮してもらえるような求人は限られます。このためきめ細かな配慮や理解が必要な求人を選ぶためには、障害者雇用の求人を目指すことが必須であることを理解しておきましょう。
「マルチタスク」「ルーティンワーク」の求人は避けた方がいい
ADHDの人にとって、マルチタスクやルーティンワークは集中力を維持するのが難しい場合があります。
例えば、マルチタスクの場合、複数のタスクに同時に取り組むことで、脳が切り替える必要があるため、タスクの遂行に必要な情報を正確に処理するのが難しくなります。また、何を優先すべきかが明確にならず、ストレスが増加することがあります。
例えば以下は、大手建設会社の障害者雇用・正社員求人です。
秘書が中心の事務職求人です。この求人の応募条件は以下の通りです。
マルチタスクが主体の業務となる事務職求人です。このような業務が得意な人も多いですが、ADHDの人は向いていることは少ないです。
事務職が中心ですが、複数の作業を求められる求人は避けるようにしましょう。
またADHDの人の場合、ルーティンワーク、つまり同じ作業を繰り返すことが苦手です。ADHDの人は飽きが早く、興味を失いやすいからです。また、刺激が少ないため、集中力が続かず、ミスをする可能性が高くなります。
以下の写真は、私が服用しているADHDの治療薬です。
こうした薬の力を借りなければ、スムーズに仕事をこなすことができないのが現状です。
ADHDの人にとっては、単調な作業や複数のタスクを同時に行うような仕事よりも、刺激的で変化に富んだ仕事が向いているとされています。
また、自分の興味や関心に合った仕事であれば、やる気やモチベーションを高く維持することができます。
手帳取得後の就職・転職活動は複数のサービス利用が必須
手帳を取得して就職や転職をするとき、ハローワークなど公共機関を利用することが多いです。ただ、これにはいくつか課題があります。ハローワークで募集されている求人情報は、量や質が限定されている場合があるからです。
このとき転職エージェントは、求職者のスキルや経験、希望条件などを踏まえて、適切な求人情報を提供してくれます。また、企業側とのやりとりも代行してくれるので、面接の手配や条件交渉などもスムーズに進めることができます。このため、自分で求人情報を探す手間を省くことができます。
さらに転職エージェントには、業界や企業の情報を持っているだけでなく、障害者雇用に関する知識や法律についても詳しいアドバイザーがいます。特に初めての障害者雇用の場合、仕事内容や職場環境について、不安を抱えることがあるかもしれません。このとき専門知識を持ったアドバイザーに相談することで、自分に合った職種や職場を見つけることができます。
なお、転職エージェントも様々です。担当者との相性もあるため、複数のエージェントに登録しましょう。
このように障害者雇用の就職や転職においては、ハローワーク以外にも転職サイトやエージェントを利用するなど、複数の方法を検討することが大切です。
そうして転職エージェントを併用することで、障害者雇用に関する専門知識や情報を持ったアドバイザーの支援を受け、スムーズな求職活動が可能になります。このため手帳取得後の就職や転職は、転職エージェントの利用が必須と理解しておきましょう。
まとめ
ADHDの発達障害者は精神障害者健康福祉手帳を取得すれば、障害者雇用求人に選択肢を広げることができます。手帳取得によって、職場で障害に対する働き方への理解と配慮が得ることができます。
また、発達障害者にとって条件のよい求人を選ぶこともできます。障害者雇用であっても、大手会社の求人は多く存在します。大手の会社であれば、安定した雇用で安心して働くことができます。他にも障害者雇用には、実務経験や高い専門性、スキルを持つ人には、障害者向けの専門職の求人もあります。
また障害者雇用であっても高い専門知識や能力があれば、高収入の求人を選ぶこともできます。
ただ、障害者雇用であっても、ADHDの人が避けた方がいい求人の特徴があります。例えば「チームワーク」「アットホーム」などの特徴のある求人です。ADHDの人はチームワークが苦手でスタンドプレーを行う傾向があります。このため、こうした協調性をことさら強調する求人は避けた方がいいです。
また、事務職に多い「マルチタスク」や、工場など単純作業に多い「ルーティンワーク」の求人は避けた方がいいです。マルチタスクは、注意力が散漫なADHDの人には向いていません。また飽きっぽいため、変化に乏しいルーティンワークは向いていません。
このようなADHDの特性から、自分に合った障害者雇用の求人を一人で探すのは困難です。このとき、障害者向けの就職や転職をサポートする様々なサービスがあります。
ただ求人の選択肢を増やし、求人情報だけでなく面接対策など手厚いサービスを受けるためには公的サービスだけでなく、転職サイトや転職エージェントに登録するようにしましょう。そうして複数のサービスを利用することで、就職・転職を成功させましょう。
障害者が就職・転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい障害への配慮や労働条件の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、障害者特有の事情説明や交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「障害に応じた求人情報が多いか、少ないか」「転職エージェントが障害の特性に理解があるか」「転職後のフォローが手厚いか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。