ADHD(注意欠陥多動性障害)の発達障害者が転職を考えるとき、最初はどこへ相談していいのか迷います。障害者が転職相談できるのは、ハローワークなど公的機関やサービスだけでなく、民間のサービスもあるからです。

ただ、どのサービスを利用することが最善なのかは、人によって様々です。それはADHDの障害の度合い特性が様々だからです。また、転職理由も人によって全く異なります。

さらに相談先が決まったとしても、具体的に何をどう相談していいのかわからないこともあります。そこで以下では、ADHDの発達障害者が転職で、どのような機関にどのような相談をしていいかをポイントを解説します。

ADHDの発達障害者が転職相談で失敗しないためのステップ

ADHDの人が転職には、必ず踏まえておくべきステップがあります。転職相談では、何を解決したいのか明確にしておかないと結論があいまいになり、いつまで経っても結論が出せず、転職活動そのものが迷走するからです。

そこでADHDの人が転職活動で、最初に相談すべき相手やサービスを順番にみていきます。

はじめは担当医に相談してみる

最初に転職の相談する相手は、あなたのADHDの特性を深く理解している人にしましょう。自分でも気づかない、視点を与えてくれるからです。このとき最も最適な相手は、かかりつけの担当医です。

一方で、一般的には家族以外の第三者に相談することが望ましいといわれています。家族は感情的なつながりがあるため、客観的なアドバイスを得ることが難しいことがあるからです。

また、家族は個人的な関係があるため、転職についての意見が決めつけや思い込みなどのバイアスを含んでいる可能性があります。

それに対して前述した担当医などの第三者は、客観的な立場からアドバイスをすることができます。また、転職に関するアドバイスを症状の観点からより冷静かつ合理的に提供することができます。

このようにADHDの人が転職相談をするときは、自分自身にとって最も有益なアドバイスを提供してくれる人を選ぶことが重要です。それによって、より健全な意思決定ができるようになり、より良いキャリアにつながる可能性があります。

ハローワークに相談する

ADHDの人を含めて障害者の転職で、もっとも一般的な相談先はハローワーク(公共職業安定所)です。ハローワークではADHDなどの障害について、専門的な知識をもつ相談員が求人情報を提供したり、就職・転職について相談に応じてもらえたりできます。

例えば以下の写真は、障害者が就労の相談している様子です。

ハローワークではADHDの障害者に適した求人の提出を事業主に依頼したり、採用面接に同行してくれたりする支援もあります。さらに、ADHDなどの障害者を対象とした就職面接会を開催しています。なお、障害者手帳を持っていなくでも利用できる場合があります。

このようにハローワークに相談する場合、転職に関する情報や求人情報を提供してくれることが期待できます。

ただハローワークは多くの障害者に対応するため、個別のきめ細やかな対応が難しい場合があります。また、障害者雇用の求人でハローワークのような公的機関を利用するときは予約が必要であり、待ち時間、定員など多くの制限があるためストレスを感じる可能性があります。

転職サイト・転職エージェントに登録・相談する

ADHDの人が転職相談する場合、ADHDについて理解し、個別のニーズに合わせたアドバイスを提供することができる専門家にするべきです。

このときADHDの人の転職を支援してくれるのは、ハローワークのような公的な機関だけではありません。専門のキャリアカウンセリングを提供している転職エージェントなどがあります。

転職エージェントであれば、ハローワーク以上にADHDの人のニーズに合わせた個別に対応してくれます。ADHDの人が転職相談をする場合、転職サイトや転職エージェントに登録することには以下のようなメリットがあります。

  • 情報の整理がしやすい
  • 目的に沿った情報が提供される
  • スケジュールの調整がしやすい

ADHDの人は、情報を整理することが難しい場合がありますが、転職サイトや転職エージェントに登録することで、求人情報が一元管理され、整理しやすくなります。

またADHDの人は、情報過多になりやすいため、自分で求人情報を収集する場合には、意図しない情報に取り込まれ、やりたいことや目的から外れることがあります。

しかし、転職サイトや転職エージェントは、求職者の希望条件に合わせた求人情報を提供することができ、自分自身で情報収集するよりも、目的に沿った情報を得ることができます。

さらにADHDの人は、時間管理やスケジュール管理が苦手な場合がありますが、転職エージェントに依頼することで、求職者と企業との面接日程調整を行ってくれます。

また、面接の前には、エージェントから面接の内容や準備についてのアドバイスを受けることができるため、面接に臨む前に自信を持つことができます。

就労につらさを感じている場合は、就労移行支援を利用する

ADHDの人が職場や仕事になじめなかったり転職を繰り返したりする理由の中には、ソーシャルスキルが足りない場合があります。もしも、あなたがこのように感じているのであれば、いったん会社勤めを離れて1~2年ほど期間をとり、就労移行支援サービスを利用することをおすすめします。

就労移行支援サービスとは、障がい者が就労するために必要な能力を身につけ、就労に関する様々なサポートを提供する制度です。全国各地に存在する行政から委託を受けた民間の事業所において、障害者の就労を支援するサービスを提供しています。

具体的には職業訓練や就労先の紹介、職場でのサポート、就労後のフォローアップなどの支援です。なお、事業所の規模は大半が20名以下の小規模なものです。

例えば以下は、私が実際に就労について相談をした、就労移行支援事業所です。

こうした小規模の事業所で、就労のための支援サービスを受けます。

就労に足りないスキルを身に着けたいと考えているのであれば、こうした就労移行支援事業所を利用するといいです。ハローワークは求人情報の提供が主なサービスですが、就労移行支援はスキル修得が目的です。

サービスを利用するためには地元市役所や役場の福祉課に相談し、その指示を受けて診断書など必要な書類をそろえて申請をします。そうして審査を経て福祉サービス受給者証を取得します。以下の写真は、福祉サービス受給者証です。

サービスの利用は原則無料ですが、仕事をしながらのサービス利用はできません。このため今の仕事を退職して、ソーシャルスキルと、資格・技能を習得し、支援員のサポートを受けながら就職活動を行います。なお、利用期間は最長2年です。

私が以前、就労移行支援事業所に相談したとき、以下のようなメリットがあることを教えてもらいました。

  • 基本からビジネス・専門性のあるスキルと知識の習得できる
  • カウンセリングや面接指導、面接同行してもらえる
  • 転職先を探すサポートをしてもらえる
  • 就職後の就労定着のために、しばらくの間相談などのサポートが受けられる

就労移行支援サービスでは、社会人に必要なマナーから事務・パソコンスキルまでの専門的なスキルのほか、カウンセリングや面接指導が受けられるため、ソーシャルスキルの低さに関する悩みや不安を相談することができます

また就労移行支援事業所には、専門的な就労支援員が在籍しています。就労支援員は、転職に必要なスキルや知識、情報に詳しいため、適切なアドバイスをもらえます。また、採用面接に同行してくれたりする支援もあります。

他にも転職先を探すサポートがある 就労移行支援サービスでは、求人情報を提供してくれたり、転職先を探すサポートをしてくれます。ADHDの特性により、情報過多になり、転職先を見つけるのに時間がかかることがあるため、そのような支援がは大きなメリットです。

このように就労移行支援サービスを利用することで、ADHDの特性に配慮した転職活動ができる可能性が高まります。また、転職相談の際には、自己申告による障害者雇用制度の活用方法についてもアドバイスをもらえる場合があるため、その点も検討してみると良いでしょう。

ADHDの人が転職相談で準備しておくべきポイント

ADHDの人は転職相談をする前に、なぜ転職を考えるようになったのか、その理由や今後のキャリアについての希望など、相談したいことを整理しておくことが大切です。

このときADHDの人は情報の整理や集中力に苦手意識を持つことがあるため、相談する前にメモを取ったり、資料を整理しておくと良いでしょう。

そうして転職の理由が職場における人間関係、障害に対する理解や配慮が不足であれば、障害者雇用によってあなたに適した働き方ができる求人を目指しましょう。

また一方で、社会人に必要な基本スキルの不足が原因だと分かるのであれば、就労移行支など障害者に対する福祉サービスを利用しましょう。

転職理由をはっきりさせる

ADHDの人が転職理由をはっきりさせるためには、自分自身が持つADHDの特性を理解しておかなくてはいけません。転職理由とADHDの特性が関係していることが多いからです。そうして、その特性を踏まえて自分が転職しようとしている理由を書き出しましょう。

ADHDの人に多い転職理由は以下のような内容です。

  • 飽きやすいため、長時間同じ仕事をこなすことが苦手
  • スタンドプレーを好むため、組織の文化やルールに適応するのが難しい
  • 注意散漫のため、ミスを防ぐための細かな作業が苦手
  • 注意散漫のため、長時間の集中力を維持することが難しい
  • 時間管理が苦手で、納期やスケジュール管理が難しい

ADHDの人の転職理由は、その特性から上記のうち何かひとつは必ず該当するはずです。

ADHDの人は新しいことに取り組むことに興味を持ちやすく、興味が持てない仕事や単調な作業に取り組むのが難しい傾向があります。そのためモチベーションが低下しやすく、自分に合ったキャリアの変化を求めるようになります。

また、注意力や集中力が短時間しか持続しないため、締め切りや多忙な状況に直面すると、ストレスやプレッシャーを感じやすくなります。これが長期間続くと、身体的な症状や心理的な問題を引き起こすことがあります。

転職理由を明確にしたうえで、それをカバーできる求人を探す必要があります。このため、ただ漫然と相談に向かうのではなく、前もってポイントを整理してから相談に臨むようにしましょう。

転職相談でADHDの発達障害者が求めるべき主なサポートとは?

転職理由をはっきりさせたら、どのような求人を選ぶべきかがみえてきます。そうして明らかになった転職理由に基づいて、求人選びのときに必要な理解や配慮を踏まえた求人選びをしましょう。

このとき、以下のような求人がADHDの人に適しているといわれています。

  • 刺激的で変化に富んだ仕事
  • 勤務時間や働き方が柔軟な職場環境
  • 自分のスキルや得意分野を生かせる職場
  • 短時間でも成果を出せる職場環境

一般雇用でこうしたADHDの特性に配慮や理解がある求人は少ないですが、障害者雇用では多いです。また短時間の集中力や、独自の発想などADHDの特性を活かせるような仕事内容もあります。

例えば以下は、大手化粧品会社の障害者雇用・正社員求人です。

法人営業の求人です。この求人の障害配慮は以下の通りです。

障害への配慮として就労支援機器や設備などのハード面のほか、ADHDの人にとっては重要となる働き方への配慮が手厚いです。直属の上司だけでなく、人事とのフォロー面談を定期的に受けてもらえます。

このように転職相談で障害への配慮を前提とした転職先を探すためには、自分の特性を理解し、転職の原因となった様々な理由を具体的にはっきりさせるた方が、優れた転職先を探すうえで重要となります。

ADHDの人は多くの情報を整理して端的に説明することが苦手な傾向にあります。このため転職を相談するにあたり、転職活動をスムーズに進めるためには、転職活動の動機面をすぐに答えられるようにしておきましょう。

転職エージェントや就労移行支援に相談して最適な求人選びをしよう!

ADHDの発達障害を持つ方が転職を考える場合、求人情報を探す際にはハローワークなどの公的機関を利用することが多いかもしれません。しかし、転職エージェントを利用することで、より良い求人情報を得ることができます。

転職エージェントは、求人情報を専門的に扱うプロフェッショナルであり、求人情報の収集や適性検査、面接対策などのサポートを提供しています。また、転職エージェントは求人情報を保有しており、公的機関よりも多様な求人情報を提供することができます。

さらに、転職エージェントは、発達障害やADHDについての理解が深い専門家が在籍していることがあります。そのため、発達障害やADHDの持ち主にとって適した職場環境や業種を選ぶことができます。また、転職エージェントは、求人情報の選定や企業との交渉なども行ってくれるため、自分で求人情報を探すことにストレスを感じる方にもおすすめです。

このように、転職エージェントを利用することで、より良い求人情報を得ることができ、自分に適した職場環境や業種を選ぶことができます。特に、発達障害やADHDを持つ方にとっては、専門的な知識を持ったエージェントがサポートしてくれることで、よりスムーズな転職活動が可能となります。

まとめ

ADHDの発達障害者が転職相談で失敗しないためには、抑えておくべきステップがあります。このとき、はじめは担当医に相談してみることをおすすめします。家族以外の専門的な第三者であれば、客観的で冷静なアドバイスが受けられるからです。

また転職活動において、はじめはハローワークに相談するのがいいです。大小さまざまな事業所の多くの求人情報と、専門支援員によるアドバイスが受けられるからです。ただ、きめ細かなサービスが受けられない場合があるなどの課題があります。

このとき、ハローワークのような公的機関だけでなく転職サイト・転職エージェントに登録・相談するといいです。求人情報だけでなく、障害に理解が深いアドバイザーからひとりひとりに合った求人情報や面接、履歴書等の書き方などに指導を受けられるからです。
一方で、ADHDの人の中で就労そのものにつらさを感じて転職を考えている場合は、就労移行支援に相談するといいです。いちど就労を離れて最長で2年間の就労訓練を受けることができます。

なお、ADHDの人が転職相談をするとき、前もって準備しておくべきポイントがあります。それは、転職理由をはっきりさせることです。そうしなければ、転職相談でADHDの発達障害者が求めるべき主なサポートがあいまいになり、転職活動のゴールが見いだせません。

このような転職活動の相談の段階で、ひとりで求人情報を集めて準備をするのは不可能です。そこで早い段階でハローワークだけでなく転職エージェントや就労移行支援に相談して、自分にあった最適な求人選びをするようにしましょう。


障害者が就職・転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい障害への配慮や労働条件の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、障害者特有の事情説明や交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「障害に応じた求人情報が多いか、少ないか」「転職エージェントが障害の特性に理解があるか」「転職後のフォローが手厚いか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。