大人の発達障害といわれるADHD(注意欠陥多動性障害)の人は、他の障害者以上に転職回数が多い傾向にあります。継続的な作業が苦手だったり、職場で継続的な人間関係を作るのが苦手だったりするからです。

転職回数が多い「ジョブホッパー」は、採用側から「うちに入社しても、すぐにまたどこかへ転職してしまうのではないか」と思われます。このため転職を繰り返すADHDの人は不利です。

こうしたことから転職回数が多いと「これ以上、転職先がみつからないかもしれない」「転職理由を聞かれたら、どう答えたらいいのかわからない」と不安になります。

ただ悲観する必要はありません。転職回数が多くても、正しい求人の選び方や対策をすれば転職は可能だからです。そこで転職経験のあるADHDの私が、転職回数が多くても転職で成功するためにはどうしたらいいのか、体験談を交えながら解説します。

仕事が続かないADHDの人の実情

ADHDの人が転職を繰り返す原因は目の前の刺激や欲求になびきやすく、すぐに結果の出ない仕事には飽きてしまう特性があります。このような転職回数が多いADHDの人は、以下の特徴がみられます。

  • 注意が散漫でひとつの仕事に集中できない
  • 集中力が足りないためミスが多い
  • 仕事のミスが多いため職場で能力を低くみられる

こうした理由から仕事への自信を失い人間関係を損なうため、転職を繰り返すケースが多いです。

ただ転職は自分のメンタルを守るために必要な仕方ない行動です。つらい職場にじっと我慢して続けて症状が悪化するよりも、思い切って転職した方がいいからです。

そこでADHDの人が転職を繰り返すの原因と、求人の選び方を以下でみていきます。

転職回数が多いと不利な理由

ADHDなどの発達障害者を含む精神障害者全体の平均勤続年数は、約5年です。労働者全体の平均勤続年数は約10年であるため、その半分です。

特にADHDなどの発達障害者は20代で平均2回、ひとつの職場あたり2~3年おきに転職しているといわれています。このため20代で3回以上転勤していれば採用側からは「この人は転職回数が多い」とみなされます。

転職回数が多いと不利になる理由は前述の通り、採用側から「うちに入社しても、また嫌になって転職するのではないか」と不安に思われるからです。

一人を採用するために会社が負担するコストは、転職サイトや転職エージェントに依頼した場合100万円以上です。このためコストに見合う働きをしてもらわなければならず、入社してして2~3年くらいで転職されては困るのです。

こうした理由から転職回数が多いADHDは採用側に高い評価をされません。

転職が多いADHDの人が成功する求人とは

それでは転職を繰り返すADHDはどのような求人を選べばいいのでしょうか。

ADHDを含む発達障害者が一般雇用で最初の就職をした場合、1年以内の離職率は約40%というデータがあります。一方で障害者雇用で就職した場合だと、1年以内の離職率はわずか5%にまで下がります。このため転職回数が多いADHDの人が転職するとき、障害者雇用で転職することが必須となります。

また、ADHDの特性を活かした求人を選ぶ必要があります。ADHDが仕事で活かせる特性は以下のとおりです。

  • 社交的で人当たりがいい
  • ひらめきと行動力に優れている
  • スタンドプレーや自分のペースでできる仕事を好む
  • 目的や目標が明確だと集中力や行動力を発揮しやすい

こうした特性は健常者に負けない長所です。そこで、こうしたメリットを活かせる求人の選び方を解説します。

営業職などADHDの特性を活かせる求人を選ぶ

ADHDの人のもっとも大きな特徴は、一般的な精神障害者と比べて社交的な人が多いことです。こうした特性を持つADHDの人であれば、販売や営業職の求人に適しています。初対面で物おじしない人当たりの良さが発揮されるからです。

例えば以下は、マンション・戸建て販売会社の障害者雇用・正社員求人です。

大手マンションや戸建て会社の営業販売求人です。土地活用や戸建て住宅の建築・購入する顧客からの相談に対して提案・販売を行います。こうしたチャレンジ精神が必要な仕事はADHDの人にとても適しています。

ただ営業というと厳しいノルマばかりがイメージされがちです。このため最初から敬遠して選択肢に入れず、デスクワークなど特性を活かせない仕事で悶々としているADHDの人は多いです。

一方で営業職は実績が重視される仕事であるため、事務職のように上司の心証などあいまいな基準で勤務評価されないというメリットがあります。

私は前職で事務職と営業職を経験しました。事務職ではミスを連発していたため、会社では叱られてばかりだったので「はやく退職したい」と毎日思っていました。しかし営業職に異動してからは厳しいノルマにさらされながらも充実した日々を送ることができるようになりました。

ただ営業職であっても事務処理は必要なので、ミスはありました。こうしたとき事務職の同僚たちから誤りがないか入念にチェックしてもらえるため、重大なミスを起こさずに済みました。ささいな事務ミスであれば、実績さえ上げていれば大目にみてもらうことができます。

また営業職は、応募資格に資格やスキルがなく、未経験であっても問題ない求人が多いです。このためADHDの人は営業にありがちな負のイメージにとらわれず、こうした営業職求人にチャレンジしてみましょう。

・ルートセールスには不向きな場合がある

このようにADHDの人は、頑張りがすぐに結果として反映される仕事には夢中になる特性があります。ただ一方で地道な努力がなければ結果に結び付かないような営業職は、途中で挫折してしまう人が多です。

このため継続的に顧客をフォローし続けなければいけない仕事はあまり適していません。同じ営業職であってもルートセールスのように、長期的には大切であっても、短期的には意味を感じにくい営業は苦手なのです。

例えば「近くに寄ったから立ち寄りました」といってまめに顔を出して親しくなるとか、将来の大口契約を期待して面談を欠かさず行うなどの営業スタイルです。

このためADHDの人は飛び込み営業や新規開拓などイエスかノーかが早く決着するような営業のほか、戸別訪問によるローラー営業などの行動力を活かした営業の求人など、普通の人が苦手と感じる求人を選ぶと成功しやすいです。

事務職は企画などの発想力が活かせる求人が適している

障害者雇用の求人で事務職が多いのは、障害への配慮がしやすかったり心身への負担が少なかったりするからです。このため事務職の仕事をしているADHDの人は多いです。

ただ事務職はADHDの人がもっとも苦手とするチームプレーを求められたり、皆が横一列になって足並みをそろえて動くことが求められたりするデスクワークです。スタンドプレーは嫌われ、実績よりもノーミスが重視される減点主義です。

事務職では勤務時間の短縮や業務量の配慮は受けられることがありますが、仕事の内容については注意力が持続しないADHDの人にとっては困難なことが多いです。

このとき事務職の中でもADHDの長所を生かせるのは企画型の求人です。自分のペースで仕事ができたり、発想力や行動力が活かされるからです。

例えば以下は、大手出版社の障害者採用・正社員求人です。

出版社であるため企画を中心とした事務職求人です。こうした出版業界は他社との競争が激しく、ありきたりの情報を発信しても生き残れません。このときADHDの人が強みのユニークな企画や、その企画を実行する行動力を活かすことができます。ただ人気の業種なので求人に対するライバルが多いです。

このように障害者雇用の事務職求人は多い中、特性を活かして転職を繰り返さないためにはADHDのひらめきや直感力を活かせる優れた求人で、転職を成功させましょう。

ADHDの人はマイペースでできる求人で特性が生きる

ただADHDの人の中には、対人不安の強い場合があります。こうしたADHDの人は営業職や事務職は適していないことがあります。ADHDを含む発達障害者は周囲に気を配ることに精神を消耗するため、ひとりの方が気楽で仕事に集中できるからです。

このとき障害者雇用には人とのかかわりが少ないマイペースのでできる仕事が求人があります。

例えば以下は、半導体メーカーの障害者雇用・正社員求人です。

倉庫内で商品運搬や管理などの軽作業の求人です。こうした倉庫内の作業は指示に通りに商品を運んだり、在庫をチェックしたりするだけの単独作業です。

チームワークに気を遣いながら仕事を勧める必要がありません。またADHDの人が特に苦手な複数の作業を同時にこなすマルチタスクの仕事もありません。

一方でデメリットがあります。それは給与です。例えばこの求人だと最高でも月収25万円です。これはスキルや資格が不要だったり、長く同じ業務に携わっても経験が活かされることが少なかったりするからです。このようにマイペースでできる求人は、だれでもできる簡単な求人が多いため、給与が低くなりがちです。

ただ転職回数が多いADHDの人にとって優先するべきは、給与よりも長く安定して働くことです。このためマイペースでできる軽作業などの求人で長く安定して働くことをめざしましょう。

転職回数が多いデメリットをカバーする方法

ただ、いくらスキルやマルチタスクが求められない仕事の難易度が低い求人であっても、転職回数が多いことが不利であることに代わりありません。このため転職活動のときは、転職回数が多いデメリットをカバーする必要があります。

そこで以下では、転職回数の多さをカバーするための対策について解説します。

転職によって得られたスキル・経験を棚卸する

また過去の職歴から、たとえ短期間であっても今後に活かせるスキル・経験があったはずです。どのような職場であっても、そこには必ずそれぞれに仕事の進め方や雰囲気に違いがあるからです。こうした環境の中で、ひとつでも貢献できたことがあれば、アピールポイントとなります。

例えば以下のような経験です。

  • アイデアを出して事務の効率化に貢献したこと
  • 営業で好成績を上げたこと
  • 社交性を活かして職場のムードメーカーになれたこと

このようにADHDの特性を活かして職場に貢献したことがアピールする材料となります。そうして日々の仕事の中で「どうすれば会社に貢献できるか」を考えながら働いていたことを自己PRにつなげることができます。

今度こそ長く勤められる理由をアピールする

採用側が求めているのは障害者雇用であっても前述の通り、長く安定して働いてくれることです。このため今度こそ長く勤められることを採用側に理解してもらう必要があります。

ただ、これまでひとつの会社で長く働いた実績がないと、採用側にすぐには信じてもらえません。このとき、今回の転職で長く勤められる証拠を示す必要があります。

そのために必要なことは、以下の点をアピールすることです。

  • これまでの職歴から、自分の適性を理解できたこと
  • 必要な理解や配慮があれば、会社に貢献できること
  • いままでと違う意気込みで転職するつもりであること

こうしたポイントを踏まえて、自己PRや志望動機を考えていく必要があります。

例えば以下は、事務職求人の障害者雇用求人で、転職理由を聞かれたり志望動機を聞かれたりしたとき面接の回答例です。

これまでに3社の事務や経理を経験しました。ただ必要な配慮や理解を求めることができなくて失敗が多く、居たたまれなくなり転職をしてきました。

こうした経験からミスを防ぎ、長所を活かすにはどうすればいいのかがわかるようになりました。私はあいまいな指示は苦手ですが、書面などによる明確な指示があれば、集中力を発揮できます。前職では伝票の仕訳など他の同僚よりも素早く処理していたため、職場で高い評価を受けたことがありました。

これまで一般枠で働いてきましたが、御社の障害者雇用には配慮のひとつとして業務量の調整や業務指示の方法に理解がいただけます。こうした配慮があれば、私の持ち味を活かして職場の効率や生産性に貢献できると考え、御社を志望しました。

このように転職を繰り返すADHDの人は、いままで特性や長所を職場で活かせなかったことが原因です。このため過去を分析し、採用側に適職といえる理由を感情を込めて自己PRするようにしましょう。

そうして障害者雇用で理解や配慮を得ながら特性を活かし、会社に貢献できることをアピールして転職を成功させましょう。

転職エージェントに頼るとデメリットをカバーしやすい

ただ転職を繰り返したデメリットを挽回するために、ひとりで面接対策をするのは不可能です。必ず独りよがりになるからです。そうならないためには、だれかに相談したり面接の練習をしたりするなどしてアドバイスが必要です。

このとき障害者雇用専門の転職エージェントに登録するといいです。転職エージェントであれば、求人の案内だけでなく、面接のアドバイスもしてもらえるからです。

例えば自己分析や志望動機、自己PRなどのアドバイスです。転職エージェントには転職回数が多い障害者の支援を行った実績も豊富であるため、あなたの職歴をもとに優れたアドバイスをしてくれます。また転職エージェントが持つ多くの求人の中から、担当者があなたに適した求人を吟味して提案してくれます。

転職エージェントの担当者は、自分が利用者に紹介した求人で、利用者が長く定着して働いてくれることが実績につながります。このため親身になって熱心にサポートしてくれます。

なお転職エージェントには、登録が無料です。転職エージェントは求人側からの依頼による収入を得ているからです。

このように転職回数が多いADHDの人にとっては、転職を成功させるうえで転職エージェントの登録は必須と理解しておきましょう。

まとめ

ADHDの人は長期的に取り組む仕事や継続的な人間関係の構築が苦手です。このため仕事が続かず、転職回数が多い傾向にあります。ただ転職が多いと、採用側が「この人は、長期就労ができない」と判断して不利になります。

そこで転職を繰り返すADHDの人は、自分の特性に合った求人を選ぶことが必要になります。対人不安の少ないADHDの人は、その特性を活かせる営業職の求人が適しています、一方、対人不安が強いときは人間関係がストレスとなるため、軽作業など自分のペースで仕事する求人を選ぶと定着しやすいです。

また事務職であれば、ひらめきや行動力などが活かせる企画系の求人を選ぶと活躍できるチャンスが広がります。
ただ転職回数が多いデメリットには対策が必要です。このとき転職によって得られたスキル・経験を棚卸したり、これまでの職場で身に着けた経験を整理したりして、今度こそ長く勤められる理由をアピールしましょう。

また自分一人でこうした対策をしても、独りよがりになるためうまくいきません。このため転職エージェントに登録し、担当者に相談することで優れたアドバイスが得られ、転職回数が多いデメリットをカバーしやすいです。

このように転職を繰り返すADHDの転職で成功するためには、特性が活かせる優れた求人で会社に貢献できることをアピールして転職を成功させましょう。


障害者が就職・転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい障害への配慮や労働条件の交渉もすべて自分でやらなければなりません。

一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、障害者特有の事情説明や交渉もあなたの代わりに行ってくれます。

ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「障害に応じた求人情報が多いか、少ないか」「転職エージェントが障害の特性に理解があるか」「転職後のフォローが手厚いか」などの違いがあります。

これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。