私は発達障害者ですが、障害者であることを伏せて地方の小さな銀行に就職しました。ただ、不向きな事務仕事や殺伐とした雰囲気の職場環境に嫌気がさして転職活動を始めました。
その後、障害の配慮が行き届いた現在の会社に就職できましたが、転職のやり方を間違えると失敗して後悔していたかもしれません。
そこで、障害者が就職や転職で失敗しないためにはどのようなやり方で求人を探せばよいのかについて、私の実体験を紹介しながらポイントを解説していきます。
もくじ
クローズで地方銀行に就職するも苦労の連続
私は5歳のときに発達障害の診断を受けました。注意欠陥多動性障害(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)です。じっとしていることが苦手で、全校集会でも授業中でも動き回ったり友達に話しかけたりしている子どもでした。
空気が読めないため周りからは浮いており、友達が少なくて寂しい思いをしていました。ただ早めに診断を受けたおかげで小学校や中学校では学校側からさまざまな配慮してもらいました。こうして、いじめられることもなく地元の私立大学へ進学しました。
就職活動では特にやりたいことはなかったので、業種や場所を絞らず片っ端から志望する会社にエントリーして面接を受けました。こうして東京のマンション販売会社と地元の銀行に内定をもらい、障害のことを考えて地元に残るために銀行に就職しました。
発達障害のためミスを連発して休職
私の場合、障害者であることを伏せて就職しました。これまでサークルやゼミで幹事・役員を任されるなど、生活になんの支障もなく過ごせていたからです。また警備員や物流倉庫、配送など多くのアルバイトをしましたが、障害で困るようなことはありませんでした。
ただ社会人生活は甘くありませんでした。入行直後から障害者特有の事務ミスを連発したからです。
銀行では新人行員が窓口業務を担当するのが普通です。入行後、数年間は福岡市内の支店で預金と融資窓口の係として勤務しました。ここで発達障害のデメリットが顕著に現れました。特に短期記憶の弱さが支障となりました。
- 指示がうまく理解できなかったり忘れたりする
- 「メモを取れ」と言われメモを取っても、そのメモをなくす
- 端末入力のミスを指摘された直後に再び同じミスを繰り返す
ミスが絶対に許されない「信用第一」の銀行において、致命的なミスばかりです。おかげで「仕事ができないヤツだ」と言われてすぐに信頼をなくしてしまい、出勤が苦痛で仕方ありませんでした。
こうして毎日「退職したい」とばかり考えながら仕事をしていたため精神に負担がかかり、休職せざるを得なくなりました。職場には2ヶ月で復帰しましたが、見かねた支店長から定期異動ですぐに異動させられました。
福利厚生は充実していても厳しすぎるノルマ
異動では温泉町の支店に赴任し、営業係に配属されました。営業の仕事は私の性分に合っていて、お年寄りや取引先の社長にかわいがってもらいました。馴染みのお客さんを回りながらセールスを通じて触れ合うことに喜びを感じていたからです。発達障害の多動性を活かし、営業成績で表彰を受けることもありました。以下は、地元銀行の営業担当者が顧客回りに出発する様子です。
ただノルマは過酷でした。営業1年目でも先輩たちと同じような目標達成を迫られました。
毎朝の会議ではその日の目標達成を宣言させられました。見込みがなかったり未達だったりしたときは、上司から「お前は今まで何をやっていたんだ」と厳しく追及される日々が続きました。常にピリピリした環境の中、特に要領が悪く弱気な私は叱責の標的になりやすかったです。
これだけ苦労をしていても小さな銀行なので給与は安く、役場職員をしていた学生時代の友人よりも給料が安かったのはショックでした。顧客の預金などの解約は突然なので、がんばりだけではノルマが達成できず、運よく達成してもボーナスが1~2万円上がるだけでした。
銀行なので週休2日や有給休暇、各種手当だけは公務員並みに充実していましたが、保守的な業界なので会社の風土は旧態依然としていました。
将来を考えて障害者雇用で転職することを決意
こうして過ごしているうち、このまま定年まで残り何十年もの間、嫌いな会社で叱責されながら仕事をしなければならないのかと思うとすっかり嫌気がさしてきました。どうしても十年後、二十年後にこの会社で生き生きと働く自分の姿がイメージできなかったのです。
こうして心配した主治医からは、「もう十分頑張ったし、転職を考えた方がいいのではないか」と言われました。
このとき私は29歳でした。転職しても次の会社でキャリアを積むためにはぎりぎりの年齢です。そこで思い切って転職することにしました。
障害者転職サイトに登録して転職活動を始める
転職にあたり最も重視したのは、長く安定して働けることです。そのためには大手の会社をねらった方がいいと考えました。また職種は特に絞らず、これまで経験のある事務職や営業職を中心に検討することにしました。
ただ、ネットで情報収集をしてみましたが地方都市で大手の求人というのは皆無でした。こうして毎日長時間ネットで求人を探していましたが「これだ」と思える求人を見つけられず、時間だけが過ぎてしまいました。
次第に「このままではいけない」という焦りの気持が増してきました。そこで一般の転職サイトに登録しました。私はこれまでの仕事は障害が原因で苦労していたので、登録のときに「発達障害で通院している」と伝えました。すると担当者から「障害者手帳を持っている人に紹介できる求人はない」といわれました。
このことをきっかけに、私は障害者採用の求人を意識するようになりました。そして、これまでの仕事の過ちや苦い経験を繰り返さないためにも、職場で障害に対する理解や配慮が必要だと考えるようになりました。このため転職では一般枠ではなく、障害者採用に特化した求人に応募することにしました。
同時に、利用する転職サイトについても障害者特化のエージェントにしました。私が登録したのは以下の3社です。
- dodaチャレンジ
- 障害者雇用バンク
- atGPジョブトレ
登録は無料です。登録ではネットで評判がいいサイトだけに絞りました。例えば以下は、大手障害者向け転職サイトの登録画面です。
登録では住所・氏名・連絡先、障害の種類や程度を入力します。登録後、それぞれのサイトから面談の問い合わせがありましたが、私は転職エージェントのオフィスがないような地方在住だったので面談ではなく電話で行いました。
各担当者とは1時間から1時間半くらい話をしました。どの担当者にも熱心に話を聞いてもらえました。内容は以下のようなものです。
- 職歴や退職理由
- 希望勤務地や業界・職種
- 希望年収
- 障害と職場で必要な配慮
次に、初めての障害者雇用の転職活動に対する疑問や不安を聞いてもらいました。例えば以下のような内容です。
- 地方でも特にスキルのない障害者に求人はあるのか
- 障害者採用の場合、転職で極端に給与が下がるのではないか
担当者からは、選り好みが強くなければ地方や未経験でも問題なく転職している障害者が多いことを教えてもらいました。また障害者でも転職によって収入が減るどころか、増やすことができた人も多いことを聞き安心しました。
また障害者枠は大手の会社が障害者雇用率を維持するために設けてあることが多いので、大手をねらうのであれば一般枠よりも入社しやすい場合が多いことを知りました。こうして障害者雇用に対して持っていたネガティブなイメージは和らぎました。
さらに担当者に話を聞いてもらううちに、自分のアピールポイントや障害の特性を整理することができました。
例えば私の場合、アピールポイントは「これだけの成果を上げたら、これだけの高評価や報酬があります」というように明確な期日や数字で指示があれば、持ち前の集中力を発揮して成果が上げられることです。
こうして孤独で不安だった転職活動ですが、転職エージェントという強い味方を得て前向きになることができました。
転職エージェントを利用してオープンポジションで大手会社に転職
このように担当者に今抱えている迷いや質問を伝えつつ求人を提案してもらっていると、ある転職サイトの担当者から「職種を絞らず、採用後に職種が決まるオープンポジションの求人に応募してはどうか」と提案がありました。
私は最初に提案されたときは「どうして事務や営業以外は希望していないのに、オープンポジションの求人を提案してくるのか?」と戸惑いました。
ところが、担当者からの提案を聞くにつれて、徐々に興味が湧いてくるようになりました。担当者がこうした職種を提案してきた理由は、求人で職種を絞ると選択肢が狭まるし、採用後、その職種に適していなければ、また転職が必要となる可能性があるからと説明を受けました。
これを聞いて、私は「確かにそうだ」と納得しました。これまでの私が事務や営業の仕事でつらかった理由は、マルチタスクが苦手で、繁忙時などで気持ちに余裕がなくなったり、空気の読めない特性のために人に気を遣いすぎて疲れ切ってしまったりしていたからです。これらが原因で仕事どころではなくなり、集中力を欠いてミスをしていました。
また、事務職や営業職ではひとつ気がかりなことがありました。それはスキルアップがあまりできないことです。長く安定して働くためには、それに応じてスキルアップが必要です。このとき実務を通してスキルアップできる職種であれば、社内で必要とされる人材になることができます。
そこでしばらく悩んだ末、担当者の提案通りにオープンポジションの求人を視野に入れることにしました。
こうして各社からいくつかの求人を提案してもらった結果、地元に拠点がある大手半導体メーカーの事業所にオープンポジションで就職することができました。採用後は社内システムのスタッフとして働きました。最初は補助的な仕事でしたが、社内システムの保守・開発などに携わることができました。
入社後は研修を受けた後、実務で先輩から指導を受けながら仕事をしました。こうして働き方や職場環境について配慮を受けながら、気兼ねなく仕事ができるようになりました。
収入については、1年目は前職より2~3割程度下がりました。ただ、2年目以降は前職以上の給与を得ることができるようになりました。
転職エージェントを利用するメリット
このように転職エージェントを利用するメリットは、丁寧に相談に乗ってもらえることや優れた提案をしてくれることです。ほかにも以下のようなメリットがあります。
- 非公開求人や独占求人などを保有するため求人が豊富
- 採用側に直接申し出づらい配慮や理解を伝えてもらえる
- 採用側に給与交渉をしてもらえる
- 履歴書の書き方や面接指導をしてもらえる
- 面接で通過できなかったときは、理由を教えてもらえる
私は転職活動で「精神的に落ち着いて働ける」「障害への配慮がある」ことを重視しました。特に精神的に無理せず安定して働きたかったからです。
ただ障害への配慮が職場にあるかどうかは会社の風土によります。このため障害者の特性や業界や各会社の特徴に精通した障害者雇用の転職エージェントでなければ、いい求人を紹介してもらえません。
私の場合、各エージェントから私の希望を踏まえていくつか求人を提案してもらいました。これらはネットの公開求人では見たことがないようなものばかりでした。このように転職エージェントには、公開している求人以外に非公開求人や独占求人など、独自の求人もたくさんあります。
また転職エージェントは履歴書の書き方や面接対策も指導してくれます。私は初めての転職なのでどのようにすればいいのかわかりませんでしたが、担当者から私の履歴書を丁寧に添削をしてもらったおかげで、志望動機や自己PR文が思ったよりもスムーズに完成しました。
面接対策も、転職エージェントが採用側から多い質問に対する答え方を「こうしたらいいよ」といって定型文で示してくれました。また希望すれば、模擬面接をしてもらえます。
なお、私の知り合いによれば面接で通過できなかった場合、転職エージェントであればその理由を教えてくれることもあるそうです。このため次の会社の面接に活かすことができます。
また、収入も転職エージェントが交渉してくれることもあります。ただ私の場合、担当者に「前職よりもそれなりに下がってもよい」と伝えました。収入の多さよりも、長く安定して働くことを最優先に考えたからです。
転職エージェントには、職場で受けたい配慮を細かく伝えておいた方がいい
ちなみに、私は転職にあたり担当者には配慮してほしいことを細かく伝えています。伝えたのは以下のような内容です。
- 業務指示はあいまいだと戸惑うので、数字や文章で明確にしてほしい
- マルチタスクを必要としない業務にしてほしい
- 威圧的な言動や感情の起伏が激しい相手には、一般の人以上に敏感なので避けてほしい
- 多人数の空間は苦手で集中力を欠くため、仕切りなどがほしい
- 神経過敏なので、クールダウンの時間が必要であることを理解してほしい
すべてを満たせる職場はないのは当然ですが、障害者雇用とはいえ自分からこうした配慮のお願いを採用側に直接伝えるのはとても勇気が必要です。健常者からみれば、単なる甘えととらえられるのが普通だからです。一方、私の場合もそうでしたが、転職エージェントを通すことで、採用側に障害の特性を踏まえてうまく伝えてもらうことができました。
また、これらの細かい要望について転職先の担当者から「あなたに部署を提案するときの参考にさせたもらった」といわれました。つまり私の障害の特性を、これらの要望によって把握できたということです。このため、担当者には遠慮せず、詳しく話しておいた方がいいです。
その結果、採用後は次のような理由で現在の部署に配属されました。
- 業務指示が明快なシングルタスクが多い
- 多人数の職場環境ではないため、自分の仕事に集中しやすい
- ひとつのことなら集中できる発達障害の特性に適している
- 一般的な事務職と違ってスキルが身に付く
おかげで現在は前職とは比較にならないほど働きやすいです。指示は基本的にメールや書面にしてもらっています。また話を丁寧に聞いてくれる上司なので、業務の報告や連絡、相談がスムーズです。
さらに、福利厚生や有給休暇も充実しています。前職もそれなりに充実はしていたものの、休暇の申し出をするときは勤務体制を理由に渋られたりすることが多かったです。一方、現在はそういったことはなく、むしろ上司から「有給休暇をきちんと取ってくれないと、私が人事から指導を受ける」と言って休暇取得を勧められるほどです。
豊富な有給休暇のおかげで、家族とのレジャーを思う存分楽しむことができます。毎月のように家族キャンプをしていますが、以下は先日の冬キャンプの様子です。
こうして転職によって時間や精神的なゆとりが生まれ、前職では自宅でごろごろしてばかりだった休日を充実させたいという気持ちが生まれました。
このように転職によって「業界や会社が違えば、これほどまでに職場の雰囲気が違うのか」と驚きました。もっと早く転職活動を始めておけばよかったです。
転職サイトの利用は複数の登録が必須
私は転職エージェントの担当者のおかげで障害に配慮があり、給与や福利厚生の充実した会社に転職を果たすことができました。これは複数の転職サイトの中で、ひとりの担当者が優れた求人を提案してくれたからです。
自分では思いもよらないような職種になりましたが、これは担当者が私自身でも気づいていなかったような適性や本意をくみ取ってくれたからです。
ちなみに他の転職サイトの担当者も、それぞれ優れた求人を提案してくれました。ただ、サイトによって「大手の会社の求人に強い」「IT系の求人が豊富」などといった長所が違うため、担当者によって提案してくれる求人にもそれぞれ違います。
また担当者によって仕事の速さも違います。私の場合、各サイトのうちの1社が特に熱心でした。遅くまで仕事をしているらしく、夜9時ころにメールで連絡してきて、早めに採用面接の日程調整をしてくれたことがあり、とても助かりました。
このようにサイトだけでなく担当者の意気込みや能力にも違いがあります。このため、転職サイトの登録は複数しておくことが大切です。
なお、ここで注意が必要です。それは担当者には、複数の転職エージェントに担当してもらっていることをきちんと伝えておくことです。それぞれ別のサイトから同じ求人を案内されて採用側や担当者に迷惑をかけてしまうことがあるからです。
このため、担当者から複数の転職エージェントを利用しているかどうかを尋ねられない場合でも、自分からきちんと伝えておくようにしましょう。
まとめ
以前の私のように、職場で配慮や理解が受けられずに苦しみながら働いている障害者は多いです。無数にある会社の中で、たまたま新卒で内定をもらった会社が自分の一生の大半を投じる価値のある最適な会社であることの方が稀だからです。
このため、このまま働いていても自分の将来に明るい見通しが持てないような職場であれば、早めに障害者雇用で転職を検討した方がいいです。
このときに大切なのが、障害者転職サイトに登録して転職活動を始めることです。転職エージェントを利用すれば、多くの求人の中から最適な求人を提案してくれるからです。また履歴書記入の指導や面接のアドバイスなど、あなたの転職活動の強い味方になってもらえます。
転職サイトにはそれぞれ特徴があります。このため1社ではなく複数の登録が必須です。そして担当者には職場で受けたい配慮を詳しく伝えるようにしてください。担当者があなたの代わりに採用側にうまく伝えてくれるだけでなく、あなたの障害の特徴を担当者や採用側から理解してもらえるからです。
このように障害者の転職活動では、複数の転職サイトに登録して転職エージェントの担当者と二人三脚で求人を探すことが大切です。そして、履歴書の記入や面接のアドバイスを受けながら転職を成功させましょう。
障害者が就職・転職するとき、求人を探すときにほとんどの人は転職サイトを活用します。転職サイトを利用しないで自力で求人を探すと、希望の条件の求人を探す作業だけでなく、細かい障害への配慮や労働条件の交渉もすべて自分でやらなければなりません。
一方で転職サイトに登録して、転職エージェントから求人を紹介してもらうと、非公開求人に出会うことができます。また、障害者特有の事情説明や交渉もあなたの代わりに行ってくれます。
ただし、転職サイトによって特徴が異なります。例えば「障害に応じた求人情報が多いか、少ないか」「転職エージェントが障害の特性に理解があるか」「転職後のフォローが手厚いか」などの違いがあります。
これらを理解したうえで転職サイトを活用するようにしましょう。そこで、以下のページで転職サイトの特徴を解説しています。それぞれの転職サイトの違いを認識して活用することで、転職での失敗を防ぐことができます。